2014年9月24日水曜日

遠足―社員研修の記





秋晴れのとある日、自由学園明日館グループのメンバーで「遠足」へ行ってきました。ここではなぜか「遠足」と呼ばれていますが、一般的にいえば「社員研修旅行」というのでしょうか。日帰りの、慰安をかねた研修旅行です。毎年やっているそうです。


今年の目的地は、栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリーと足利学校です。池袋の芸術劇場前からバスに乗って二時間、高速道路沿いの稲穂はとてもきれい。佐野インターを降りてしばらく彼岸花の咲く田舎道を行くと、突如目の前の山にブドウ畑が出現しました。


先日、私が長野の白馬で見たオリンピックのジャンプ台と同じくらいの、ものすごい急傾斜です。ここで葡萄が栽培され、ワインが作られているのですが、作業をするのは知的障害を持つ人たちで、適材適所を得た彼らが、ワイン作りのありとあらゆる工程に携わっているとのことです。


うつくしい葡萄棚








――と、書くのは簡単ですが、このプロジェクトは昭和30年以来の気の遠くなるくらい長い努力の物語なのです。詳しくはHPをご覧ください。↓
http://cocowine.com/

昭和30年代の開墾当初 
  

もともとは特殊な教育機関として始まった葡萄園なので、ビジネス本位というより、慈善事業的な雰囲気がただよっています。葡萄の収穫に関しても、園長先生の「自分の食べたい葡萄を摘みなさい」という指示に従って、園生は本当においしい葡萄ばかり摘むのだそうです。ふつうだったら、「このくらいは使えるだろう」的な発想で摘んでしまいますよね、商売を考えると。


ワイン蔵や製造所のステンレスのタンクもみんなピカピカで、きっとそういうのを磨くのが好きな専門スタッフがいるのかしら。他者のことを気にせず、自分の任された仕事を疑問を持たず淡々とこなせるというのは、たしかに一つの能力ですよね。本来、仕事というものはそういうものなのかもしれない・・・自然の洞窟を利用したワイン蔵は薄暗く静謐で、なんとなく神妙な気持ちになってくる私でした。

その名も「ワイン・ケーブ」

ステンレスの美しいタンク



しかしショップとレストランはしっかりプロのビジネスをしています。魅力的な商品がそろい、誰もが思わずたくさん買い込んでしまいそう。ガイドさんのお話も上手で、ワインの試飲もたくさん出来るし、過去のサミットで首相主催の晩餐会用に選ばれただけあって、味もいいし。レストランのお食事も同様にお洒落でおいしかったです。平日にもかかわらず、たくさんの観光客が来ていました。


学校法人のとしての活動とプロのビジネスがとてもうまい具合にミックスされていて、自由学園関係者にも学ぶところが多いところですね。


ワイン試飲場



5種類ものテイスティングが出来ます



おしゃれなランチ


美しい葡萄棚の下で楽しいひと時を過ごし、次に向かったのが、日本最古の学校として知られる「足利学校」。あまりに古すぎて奈良、平安、鎌倉と創建説が複数あります。応仁の乱以後は学徒3千人という超マンモス校です。室町時代を築いた足利氏の出身地ですから、文化レベルの高い土地だったのでしょう。


今はまわりに大きな施設もなく、関東の辺鄙な土地に思えるのですが、隣の太田市からは、足利尊氏の宿敵、新田義貞が出ているし、同じく隣の佐野市は戒壇(奈良時代に設けられた僧尼を認めるための施設。奈良の東大寺、九州大宰府隣の観世音寺と佐野の下野薬師寺の三箇所のみ。箱根より北の地方で僧になりたい人は皆そこへ行って戒律を授かったとか)もあったし、その昔は今よりずっと栄えていた一帯だったはずです。1549年に宣教師フランシスコ・ザビエルが「日本国中最も大にして、最も有名な坂東の大学」と紹介したそうですから。


日本の伝統的な教育体系は儒教がベースになっています。なので、足利学校でも孔子の教えをはじめとした中国古典がテキストです。明治以降、おそらく戦前あたりまで連綿としてつながってきた日本のエリート教育のはじまりがここだったのでしょう。学問が国を支えてきたという事実を思わす粛然とした空気が流れていました。ひと一人の小さな脳の中に詰め込まれた膨大な知識と教養と、それを基にした思考力で世界をまたにかけることも可能なのだわ~、などとその日の秋空のようにからっぽの頭で生きてきてしまった私は、妙に空しくなったりしたのでした。


ちなみに昔の武将は戦勝を占いに頼っていて、易占いよって戦いの日取りや攻める方角を決めていたとか。足利学校ではそうした易者(軍師と呼ばれた)を多数排出していたとのこと。そんな資料も展示されていました。占いも兵法のひとつ、立派な学問だったのです。


足利学校のお隣は、足利氏のゆかりの鑁阿寺(ばんなじ)です。本殿は国宝に指定されています。元は足利氏の館だったので、今でもお堀が残っています。鎌倉時代戦後の武士の住居をうかがい知ることができるというわけです。


鑁阿寺 右に大銀杏 

本殿右手前に天然記念物に指定されている大銀杏があり、その銀杏で作った厄除けのお守りが売っていました。「このお守りのおかげで交通事故にあっても助かった人がたくさんいますよ!」と売り場のオジサンに言われて、一瞬買おうかなと思いましたが、大銀杏から「気」をもらうことでいいことにしました。たしかにそこはパワースポット的な空気に満ちていました。


帰りも夕焼けにますます色づく稲穂を見つつ、順調に帰ってきました。最後に打上とか面倒くさいことをしないところが、自由学園らしくていいなと思いました(笑)。




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