2015年2月20日金曜日

玩具のプロ・石井さんのお話



先日のお宅訪問以来、おもちゃの役割について考え続けています。

たまたま、工芸研究所のコルク積木について、それを実際に使っている東京おもちゃ美術館の担当者からお話を聴く機会がありました。

戦火を逃れた旧第四四谷小学校の校舎を利用して開館した東京おもちゃ美術館。以前紹介しましたが、玩具・児童文化研究者の多田千尋さんが2008年に開館した、子どもと大人が一緒に遊べるエンターテインメント施設です。
(ブログ「東京おもちゃ美術館へ行ってきました!」)

――と簡単に書きましたが、いろいろ調べてみると、多田千尋さんのお父さまの多田信作さんもまた、児童玩具の研究者の権威だったようで、玩具と教育についての著書がたくさんあり、1984年に、現在の東京おもちゃ美術館の前身である「おもちゃ美術館」を創設されています。

あの美術館の、はんぱでないコレクションやディスプレー、各教室のコンセプトの見事さは、子どものおもちゃ一筋に研究されてきた多田親子の、長年の努力と情熱に裏打ちされていたものなのですね~。納得しました!ほんとにすごい美術館なんですから。


おもちゃ美術館が毎年選定するグッド・トイを展示した教室。研究所のコルク積木が中央に


そこで「赤ちゃん木育事業本部」というところのリーダーをされている石井今日子さんもまた、おもちゃに対する気持ちの熱い方で、元保育士という経歴もさることながら、日々遊ぶ子どもたちを見ながらの、たいへん含蓄のあるお話をしてくださいました。



「赤ちゃん木育ひろば」はオシャレな木でできている

石井さんのお話をまとめてみました。


自由学園生活工芸研究所のコルク積木は、NPO日本グッド・トイ委員会が選定したグッド・トイで、東京おもちゃ美術館内にある「赤ちゃん木育ひろば」で遊ばれています。(「木育」とは、赤ちゃんから木の魅力を体感してもらい、森林大国日本を支える人材を育てようという大きなコンセプトのもとに全国展開している当美術館の活動の一つ。) 木のおもちゃには、子どもの五感にはたらきかける力があります。木目の違い、様々な樹種の香り、手で感じるぬくもり、そして赤ちゃんは舐めることで木を感じることができますから。自由学園のコルク積木もよく噛まれています(笑)。 
子どもたちを観察していると、コルクの積木は滑らず積みやすいので、無造作に積み重ねるだけで素敵な作品になるのがうれしいようですね。大きいのに軽いので、小さい子どもでも高く積み上げることができて、達成感を感じるようです。このサイズ感はこのメーカーならでは。また、良質なコルクにはプラスチックや木とは違った「あたたかさ」があり、長い間手に持っていても不快感がないので、子どもの集中力が途切れないのです。 
今の子どもたちは、小さい時からスマホゲームを与えられたりしますが、あれは本当の意味ではおもちゃではないと思います。おもちゃって、大人の都合で子どもに「遊んでもらう」ものではなくて、子どもが自分からすすんで楽しむものですよね。それにはシンプルな方がいい。子どもは自分で遊び方を見つけるのです。重さや大きさを自分の手で確かめながら、物を作る喜び、作り上げた時に感じる満足感や自信、他の子どもと協力する楽しさ、せっかく作ったものを壊したり壊されたりして感じる悔しさ――そんなことを日々実感しながら子どもの心は成長していくものです。そしてそれを助けるのがおもちゃ本来の役割。

そういう意味では、自由学園工芸研究所のコルク積木は、赤ちゃんから小学校高学年までのそれぞれの段階において、大切な成長の機会を与えられるおもちゃなのです。現在はおもちゃの寿命が短く、早くて半年、長くても数年で市場に出ては消えていく商品が多い中、親子孫と三代が使い続けられるだけの頑丈さとシンプルさを持つコルクの積木は素晴らしい。その魅力を私も伝えていきたいと思います。 (本人談)


ちょっと宣伝調ですが(笑)。私もこれまでご紹介してきたように、コルクの積木のイベントを通して、子どもたちが自分で遊び方を進んで見つける様子をつぶさに見てきました。あの集中力、創造力には驚かれました。

石井さんは言っていました。

同じオセロゲームでも、対戦相手が実際にいるのと、スマホのゲームで遊ぶのとはぜんぜん違う。相手がいれば、負けて悔しいとか勝ってうれしいとか、そういう強い感情があって、それが相手にも同じようにあることを想像することができる。ゲームだと、終わったらすぐにリセット、気に入らないゲームもリセットできてしまう。悔しさもうれしさも実感がないし、人とコミュニケーションをする能力が育たない。

たしかに、このごろ不可解な未成年による殺人事件も、相手の感情どころか自分の感情すらも分からないような犯人が少なくない。自分の感情が育っていないというか。石井さんのおっしゃるように、子どもは遊びを通して成長する。遊びを通して、他者を知り、自分を知る。楽しさ、うれしさだけでなく、悔しさもむなしさも実感としてはじめて知るのは、遊びなのだ。

そしてその遊びを助けるのが玩具か~。


「木育ひろば」にあったコルク積木。たしかによく齧られている


大好きなお人形をお布団で寝かせてあげたい、こんなやさしい気持ちが自然に生まれるような、そんなぬいぐるみを作ること、それが自由学園工芸研究所の役割なのかな~



研究所の人気者のねむり人形に、木育ひろばの方がお布団を作ってくださいました






お宅訪問




良質のおもちゃを作って売っている現場ばかりにいても、「現在のおもちゃ事情」は分からないので、赤ちゃんのいるおうちを訪ね、実際のおもちゃ現場を取材してみることにしました。


一歳半になるお嬢さんをお持ちのFさんです。私の数年来の知人で、都内の高層マンションに住んでいます。

リビングの二分の一近くが、赤ちゃんの遊べるスペースになっていました。おもちゃは中央の壁に寄せてあります。(その日は赤ちゃんはおばあさんのところに行っていて不在。)







とてもカラフルなおもちゃたち。でもFさんが買ったものはほとんどないそうです。つまりおばあさんや親戚のおばさんたちがプレゼントしてくれたものばかり。唯一彼女が買ったのは、赤ちゃんの服を買いに行った店に売っていたものを、赤ちゃん本人が気に入ったという理由で買ったピアノの玩具。

彼女はピアノの先生なので、胎教ということなのでしょう、音の出る玩具が大好きなのだそうです。




そのほか、彼女の赤ちゃんが気に入っているのは、大人の世界で興味のあるもの・・・ほんとは子どもがいじってはいけないものばかりを集めた玩具です。

ケータイ、ドアベル、水道の蛇口、ティッシュペーパー、鍵、コンセント、マヨネーズのチューブ、メガネの玩具が一セットになっているもの。こうしたものに興味津々の赤ちゃんの、ツボを集めています。

そのほか、大手玩具メーカーが毎月、子どもの成長に合わせて送ってくる「知育玩具セット」もありました。4ヶ月で止めてしまったそうですが。


今、Fさんの赤ちゃんがもっとも好きな玩具は、iPadです。先日遊びに行ったときは、それが欲しくて騒ぐので、Fさんも根負けして隠しているところから取り出していました。赤ちゃんがネットを見たりできるわけはないので、ただ触って画面が変わるのが面白いのでしょう。





なんだか、自由学園生活工芸研究所で作っている玩具とは、いろんな意味であまりに違いすぎて、なんと言ったらよいかわかりませんでした。


日本玩具協会による2013年度玩具市場調査によると、市場規模は6,756億円、うち40%はテレビゲームです。そのほか、キャラクター玩具、スマホ玩具が伸びており、オーソドックスなぬいぐるみなどの玩具の市場規模はとても小さくなっています。

子どもが積木のような素朴な玩具から遠ざかっているデータですが、それが時代の流れなのでしょう。

子どもがいる限り、玩具は必要。でも、なぜ必要なのだろう?玩具本来の役割ってなんだろう?あんな小さいうちからスマホ玩具を与えるのはいいのか、わるいのか?

子どもが喜べばいいのかな???

自分に子どもがいないのでよく分からないのですが、なんとなくビミョー気持ちになったお宅訪問でした。









2015年2月3日火曜日

手芸女子のボタンはめ時計



工芸研究所のオフィスにひとり物静かな女子がいます。いつも淡々と作業をしている彼女、なんか気になります。

牛久綾さん。私が今まで見たことのある人の中でもっとも美しい肌をしています。まるで白雪姫みたい。

ちょっと笑わせてみました。いつもはすましている。


彼女は自由学園を卒業してここに勤めて10年目。担当は玩具。これまで私が取材してきたぬいぐるみの制作者さんと素材メーカーの間に立って、生産の管理などをしています。

今日はタヌキのぬいぐるみのタグ付けをしたり、豆の人形を鞘に収めていました。たぬきや豆やトラやヒツジ・・・ここで扱っているロングセラーのぬいぐるみは数え切れないほどあります。

 
 こうしたぬいぐるみはどれも手作りで、その全種類の素材をそろえるという仕事は、想像していたよりずっと大変なことのようです。

「ぬいぐるみはパーツが小さくて種類が多いので、大量の素材が必要です。たとえばフエルトだけでも何十種類もいるし、その分だけ同色の糸も必要だし」

ここでぬいぐるみを作っているスタッフは約20名弱。そのほか内職さんもいます。その人たちはみな得意不得意の専門分野があり、このぬいぐるみならだれだれ、これはだれだれ、と担当が決まっています。ミシンが得意な人、手縫いが得意な人、細かいのが得意な人などなど、それを振り分けて材料をわたし、滞りなく出荷する・・・

すべては手作り、伝統工芸士のような仕事ですから、その技術を継承し、クオリティーの高さを保ちながら商品化するのは、簡単なことではないでしょう。


人気の動物ボールにもそれぞれ制作担当者がいる


しかも、ここの素材はほとんど特注でメーカーに作ってもらっているものばかり。ロットも少量だし、メーカーのほうで生産中止にしてしまうケースも少なくありません。

「動物ボールの素材もついに廃番になってしまって・・・」

たぬき、絶滅か!?

そうなると牛久さん側では、同程度のクオリティーを保つただけの素材を確保しなければならないのです。

80年も、ものによってはそれ以上も販売を続けている商品。たくさんのお客様に支持されてきたものを、いまも変えずに提供すること、これもまた工芸研究所の使命なのでしょう。

「一徹に守る、変えない努力、っていうんですかね」

30代の女子からこんな言葉。でも彼女が言うと説得力がある。


牛久さんは自由学園では陶芸を専攻し、工芸に入ってからは木工作りをしたかったのですが、その部門が廃止になって、玩具担当になったそうです。でもなにしろ手を動かすのが大好きという彼女。平日はうちに帰ってから、「内職」しているそうです。

それが、超ロングセラーの「ボタンはめ時計」

牛久さんが作っているのは限定干支バージョン



オリジナリティの高い玩具として、2013年度に「グット・トイ」に認定されたものです。

子どもはこのおもちゃで時間を学び、同時にボタン付けを学びます。一石二鳥の知育玩具。ありそうで、ほかでは見たことがない。かわいいので、子どもは上のフックをつかんで持ち歩きながら、時計も読める、パジャマのボタンも自分でできるようになる。子ども部屋の壁飾りとしても素敵です。

賢くな~れ!


しかし、見れば見るほど、このミシン技はすごいですよ、びっくりしました。私だってカーテンぐらいは縫えますが、この完璧なミシン目には脱帽です。

一見手芸女子風の牛久さんは、実は凄腕のプロなのでした。

 

めがね姿も肘下カバーも・・・なんか萌え~



干支のひつじ以外にも、ねこ、うさぎ、いぬ、ロケットなどいろいろなボタンはめ時計あります↓
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動物ボールもたのしいです↓
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