今朝職場に行ってみたら、大きな人形が二体、玩具部ホームドクターの手術を終えて横たわっていました。お洋服を着せてもらって、元気になった姿を一枚。
18年もたっているとは思えない |
これは大人形(おおにんぎょう)といって、ここ研究所で50年以上も前から販売している着せ替え人形です。大人形、というだけあって、身長60センチ。子どもにとっては本当の弟や妹のような大きさかもしれません。
20年近くたってぼろぼろになっていたそうです。実際に販売している大人形はこんな感じ。ショップ店長の小幡結花さんと販売部のリーダー関本祥子さんにそれぞれ抱いてもらいました。
左から小幡さんと関本さん |
こんなかわいいお人形ですが、なんと今年度をもって販売を止めるそうです。着せ替え用にオーバーも帽子も手編みのカーディガンもあるのに!
職人が時間をかけて作る予約注文。今はこういう時代じゃないということなのでしょうか。でもあまりに残念すぎる・・・
ということで例によって、この人形を作っている職人さんの現場を訪ねてみることにしました。
「数年前までは年間10体ぐらいの注文があったのだけどね。今年のクリスマスプレゼントに一つ注文が入っているけど、もう材料の入手も難しいし、止めることにしたの。」
とさみしそうに話すのは、川崎征子さん。研究所に勤めてほぼ半世紀に近いという、ここの生き字引のような人です。(とてもそんなお年には見えないのだけど。指先を使うお仕事で脳が活性化されているのかな。)
手芸が天職の川崎さん |
「昔はね、誕生日とか、ひな祭りなんかに合わせて注文があったのだけど、今はおもちゃの定義も変わってきたしね。」
「おもちゃの定義、ってなんですか?」
「かつては、おもちゃは教育のツールだったというか。特にここ研究所のおもちゃは、見た目のかわいさよりも、おもちゃを通して子どもに何を与えられるか、子どもの知性や情操をどう育てるかという視点で作ってきたから。時代遅れなんでしょうか。」
いえいえ、そんなことないと思うけど・・・
「母親がいっしょに子どもとゆったり遊んであげて、そのなかから子どもの特性や個性を観察して伸ばしてあげよう、というようなのんびりした時代じゃないのかな・・・」
と、言うのは隣で例の仔羊を作っている秋元三喜子さん。
たしかに母親が常に家にいて子どもとのんびり遊ぶような時代ではないのかもしれませんね・・・。かつておもちゃは子どもだけが使うものではなくて、親にとっては、それが一つの教育道具だったのでしょう。社会が変わって、おもちゃの需要も変わって、工芸研究所ではこれまでに多くのおもちゃが「リストラ」されています。
その理由は、需要が変わっただけでなく、材料の調達が難しくなったからだと、川崎さんは言います。
「ぬいぐるみはたくさんのパーツを組み合わせて作るから、生地がしっかりしたよいものでなければならないのだけど、それを作ってくれるメーカーがここ二、三年で急に減ってしまったの。しかも一つ一つのパーツが小さいから小ロットでしか注文できないし、わざわざ色を染めてもらったりしていたのだけど、そういう融通の聞く会社がなくなっちゃって。今は何でも大量注文の時代だから。」
なるほど。この大人形の顔と体の生地は、メーカーに特注で染めてもらっているそうです。でももうそういう町工場的な時代じゃないのですね・・・
アトリエ風景 |
レトロなミシン。使いやすいそうです。 |
制作者のモットーでしょうか、こんなスローガンが |
安くても質の悪くないものが簡単に手入る時代になって、それはそれで悪いことじゃないけれど。でも、こういう大人形を買ってもらって、何度も直してもらっていた子どもたちの時代のほうが、豊かに感じるのはなぜだろう。
大人形制作中止のお話は、この50年間の、子どもと母親のかかわりや社会の変化を象徴しているような気がします。
クリスマスの食卓についた男の子と女の子。かわいいな~!
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